明治という時代は、ただ「新しい」だけではない。江戸の暮らしに根ざした感覚が、少しずつ揺らぎ、変わっていく。その揺らぎの中にこそ、人の心の葛藤や希望がある──そんなことを教えてくれるのが、平岩弓枝『新・御宿かわせみ』第一巻だ。
舞台は明治6年。文明開化の波が押し寄せる東京で、イギリス帰りの医師・神林麻太郎が帰国するところから物語は始まる。彼の妹・千春が営む「御宿かわせみ」は、江戸の面影を残しながらも、新しい時代の人々を迎え入れる場所となっている。
📖江戸から明治へ──物語のはじまり
築地居留地で起きた事件は、麻太郎が遭遇する最初の試練。外国人が行き交うこの地で、言葉も価値観も異なる中、彼は冷静な観察力と柔軟な思考で真相に迫っていく。西洋医学を学んだ彼の視点が、事件の解決だけでなく、時代の変化を象徴しているように感じられる。
🌒暦の違和感──「節分が正月の後にくる」ことの意味
この巻を読んでいて、ふと立ち止まったのが暦の描写だ。旧暦では、節分は正月の前にあり、正月は新月に合わせて始まる。それが新暦では、正月が1月1日固定となり、節分が後にずれる。
「正月が新月でないと変だ」「節分が後に来るのは不自然だ」──そんな感覚は、江戸の人々にとっては当然だったのだろう。今では当たり前になった暦も、当時は違和感の連続だった。暦の変化が、季節感や生活のリズムにどれほど影響を与えたかを考えると、時代の移り変わりがより身近に感じられる。
🧑🤝🧑登場人物たちの魅力
麻太郎の理知的な振る舞いと、千春の芯の強さ。彼らのやりとりには、兄妹の絆だけでなく、旧時代と新時代の価値観の交差が見える。また、畝源太郎や麻生花世といった若者たちも、時代の波に翻弄されながらも、自分の道を模索している。
彼らの姿は、単なる捕物帳の登場人物ではなく、「変化の中で生きる人間」として描かれている。だからこそ、読者は彼らに共感し、応援したくなるのだ。
✨おわりに──電子版でよみがえる記憶
紙の本で親しんできたこのシリーズを、電子版で一気に揃えた。毎年楽しみにしていた刊行が止まってしまった寂しさはあるけれど、こうして再び読み返すことで、登場人物たちの息遣いや、時代の空気をもう一度感じることができる。
『新・御宿かわせみ』第一巻は、明治という時代の「はじまり」を描いた作品であり、読者自身の「気づき」や「再発見」を促してくれる一冊だ。暦の違和感、文化の衝突、そして人の心の揺らぎ──そのすべてが、今の私たちにも通じるテーマなのかもしれない。