ある晩、YouTubeを眺めていたら、俳優・石井正則さんがイヤホンを紹介している動画に出会った。彼の語り口はいつも穏やかで、どこか誠実さが滲んでいる。紹介されていたのは、KBEAR KB03というハイブリッド型イヤホン。骨伝導ドライバーまで搭載しているという。しかもAmazonでクーポン付き。気づけば、指は「購入する」を押していた。
数日後、届いたイヤホンを手に取り、まず試してみたのはLovebitesの『Judgement Day』。重厚なギターリフ、疾走するドラム、そして力強いボーカル──ヘビーメタルの王道を行くアルバムだ。
ところが、聴こえてきた音に、思わず「ん?」と首を傾げた。
音はクリア。確かに解像度は高い。だが、どこかスカスカしている。いつもなら壁のように迫ってくるギターが、空間の中に浮いているような感覚。音圧が足りない?いや、違う。これは「分離」だ。個々の楽器が際立ち、互いに距離を保っている。まるでライブハウスの最前列で、それぞれのアンプの前に立っているような聴こえ方。
試しに、普段使っているダイナミック型イヤホンに切り替えてみる。すると、音が一気に「塊」になった。ギターとドラムが混ざり合い、ボーカルがその上に乗る。分厚く、迫力がある。まさに「ヘビーメタルの壁」だ。
KBEAR KB03は、音楽を「感じる」イヤホンではなく、「観察する」イヤホンなのかもしれない。演奏の巧さや音の配置を冷静に見渡すことができる。だが、音楽に包まれたいときには、少し距離を感じる。
この体験は、イヤホンのレビューというより「音の風景の違い」を記録するものだ。同じアルバムでも、聴く道具によってまるで別のミックスになる。それは驚きであり、発見でもある。
衝動買いは、時に思いがけない旅の始まりになる。KBEAR KB03は、そんな旅の入り口だった。