大学時代、僕は長崎市の下宿に住んでいた。坂の上にある鉄筋コンクリートの建物で、2階が入口になっている長崎らしい構造だった。上の階には医学部の学生が住んでいた。彼はいつも何かしらの音楽を流していて、その中でも印象的だったのが、ローリング・ストーンズの『Tattoo You』だった。部屋に行ったときなどには、よく流していた。
当時の僕は、パンクロックに夢中だった。クラッシュやセックス・ピストルズの尖った音に惹かれ、ボブ・マーリーのレゲエにも心を寄せていた。ロックなら、ストーンズよりもキンクス派。だからこそ、階上から流れてくる「Start Me Up」や「Waiting on a Friend」は、どこか“他人の音楽”のように感じていた。
でも不思議なもので、数十年経った今、社会人として『Tattoo You』を聴くと、あの下宿の空気がふっと蘇る。医学部の彼の顔はもう思い出せないけれど、音だけは鮮明に残っている。記憶というのは、風景よりも音に宿るのかもしれない。
🕰️ 音楽が記憶を呼び起こす瞬間
『Tattoo You』は、1981年にリリースされたアルバムで、実は新録ではなく、過去の未発表音源を再構成した作品だ。ミック・ジャガーとキース・リチャーズの関係が冷え込んでいた時期に、エンジニアのクリス・キムジーが「過去の音源を活かそう」と提案したことで生まれた。
A面はアップテンポのロック、B面はスローでメロウな楽曲。まるで、大学時代の僕の気分の揺れを映しているようだ。朝は「Hang Fire」で勢いをつけ、夜は「No Use in Crying」で静かに沈む。そんな使い方をしていた記憶もある。
🏈 社会人になって聴く『Start Me Up』
今では「Start Me Up」は、NFLのキックオフの音楽としても知られている。あのイントロが流れると、試合が始まる高揚感が湧き上がる。学生時代には感じなかった“始まりの力”が、今ではこの曲に宿っている。
社会人として、何かを始める勇気が欲しいとき、僕はこの曲を聴く。階上から流れてきた“他人の音楽”が、今では自分の生活のリズムを刻む音になっている。
✍️ まとめ──音楽は記憶の鍵
『Tattoo You』は、僕にとって記憶の鍵だ。下宿の階段、医学部の彼、パンクとレゲエに傾倒していた自分、そして今の自分。すべてがこのアルバムに結びついている。
音楽は、過去と現在をつなぐ橋になる。そして時には、忘れていた風景をそっと呼び戻してくれる。