最近読んだ小説『名探偵のままでいて』(小西マサテル著)は、ミステリーでありながら、私にとっては“老い”と“希望”を考えるきっかけとなる一冊だった。
物語の主人公は、レビー小体型認知症を患う祖父と、その孫娘で小学校教師の楓。祖父はかつて校長として論理的思考に長けた人物だったが、今は介護が必要な生活を送っている。そんな祖父が、楓の持ち込む“日常の謎”を椅子に座ったまま解き明かしていく──まるで安楽椅子探偵のように。
この設定だけでも心をくすぐられるが、私が強く惹かれたのは、祖父の「名探偵であり続けようとする姿勢」だった。
老いは終わりではなく、形を変えた役割の始まり
私の両親も今、車椅子での生活を送っている。認知症ではないことに感謝しつつも、日に日に少しずつ衰えていく姿を見ていると、どうしても「できなくなったこと」に目が向いてしまう。
けれど、この作品の祖父は、記憶が揺らぎ、身体が思うように動かなくても、「考える力」や「人の役に立ちたいという気持ち」は失われていない。むしろ、彼の推理は楓の人生を支え、物語の核心を動かしていく。
それは、老いが“終わり”ではなく、“形を変えた役割の始まり”であることを教えてくれる。
「名探偵のままでいて」という祈り
タイトルの『名探偵のままでいて』には、楓の祖父への願いが込められている。病気が進行しても、記憶が薄れても、「あなたは私の名探偵でいてほしい」という祈り。
それは、私たちが家族に対して抱く思いにも通じるのではないだろうか。
「昔のように歩けなくても、話せなくても、あなたは私の大切な人であり続ける」
そんな気持ちを、静かに、でも確かに思い出させてくれる作品だった。
希望は、誰かの役に立てるという実感から生まれる
祖父が謎を解くたびに、楓の表情が明るくなる。その瞬間、祖父は“名探偵”としての誇りを取り戻す。人は、誰かの役に立てると感じたとき、希望を持てるのだと思う。
それは、介護される側も、する側も同じ。
私も、両親との日々の中で、できることを探しながら、彼らが「まだできること」に目を向けていきたい。たとえ小さなことでも、それが希望の種になるのだから。
最後に
『名探偵のままでいて』は、ミステリーとしても秀逸だが、何より「老いと向き合うことの意味」を優しく教えてくれる物語だった。
もし、家族の老いに戸惑っている人がいたら、この作品をそっと手渡したい。
「名探偵のままでいて」と願う気持ちは、きっと誰かの心を温めるはずだから。
この作品は、最近三冊目が出版されました。どの巻からでも読むことはできますが、ぜひ一冊目から読むことをお勧めします。