こんにちは。宮崎県の新富町、「新田原」に住むブログ主です。
宮崎県民の方ならお馴染みですが、県外の方に向けてまずクイズです。この地名、読めますか?
「しんたばる」と読みたくなりますよね。実はこれ、「にゅうたばる」と読みます。
旅情ミステリーの巨匠・内田康夫先生の名作、浅見光彦シリーズの『高千穂伝説殺人事件』の作中でも、主人公の浅見光彦がこの宮崎の難読地名に戸惑うシーンが印象的に描かれています。
今回は、地元民である私が、この『高千穂伝説殺人事件』の概要を紹介するとともに、作品を通して感じた「宮崎の光と影」について、母から聞いた戦時中の記憶を交えて綴ってみたいと思います。
1. 『高千穂伝説殺人事件』の概要と見どころ
まずは作品のあらすじから。
宮崎県と鹿児島県の県境にある高原町の「高千穂の峯」、西臼杵郡高千穂町という、北と南の高千穂を巡るシンポジウム後に起こった、北の高千穂町議が列車事故で亡くなった。この事件を発端に物語が始まります。
ルポライターの浅見光彦は、テレビのロケハンで宮崎県・高千穂を訪れます。天岩戸神社や高千穂峡など、天孫降臨の地を巡る光彦でした。しかし、本当の目的は、都内で発生した大企業重役が失踪者を探しているその娘であるヒロイン、若く、美しいバイオリニストのボディーガードでした。そして、高千穂町で発生した死亡事件(自殺と見られるが警察が捜査していた)は、失踪に繋がりがある人物でした。
とともに、高千穂に伝わる神話や、かつてこの地を揺るがした悲劇的な「伝説」を紐解いていく光彦。宮崎の美しい自然を背景に、現代の連続殺人と過去の因縁が深く結びついていく、哀しくも美しい人間の愛憎劇です。
作品には、高千穂峡の真名井の滝や、八百万の神々が集まったとされる天安河原、そして夜神楽の笛の音など、宮崎の神秘的なスポットが多数登場し、読者を旅情へと誘ってくれます。
2. 新田原に住む私が、この作品に惹かれる理由
内田康夫作品の大きな魅力は、単なる謎解きだけでなく、その土地が持つ「歴史の傷跡」や「過去の悲劇」が現代の事件に影を落とす、深い人間ドラマにあります。
浅見光彦が訪れた高千穂は、天孫降臨の神話が息づく「光」の地。
一方で、私の住む「新田原」には、かつて日本の運命を背負った重い「影」の歴史があります。
実は私の両親は、戦時中はこの新田原で小学生時代を過ごしました。
当時、新田原には陸軍の飛行場があり、終戦間際には臨時の特攻基地となっていました。母は当時の様子を今でも覚えています。
「母が住んでいた近くの林に、敵の空襲から隠すように飛行機(軍用機)が置かれていた。その傍らで、若い兵隊たちが何人かたむろして、昼間から花札なんかをして遊んでいたのよ」
子供心に「少し軍紀が荒れているのかな?」と感じたそうですが、大人になってその背景を知ると、胸が締め付けられるような気持ちになります。
彼らは「荒れていた」のではありません。明日をも知れぬ命を前に、出撃の命令を待つだけの張り詰めた時間の中、死への恐怖をほんの一瞬でも紛らわせるために、仲間と花札に熱中せざるを得なかった――。新田原から沖縄の空へと飛び立っていった、若い特攻隊員たちの精一杯の「心の防衛策」だったのでしょう。
3. 神話のロマンと、足元にある歴史の記憶
『高千穂伝説殺人事件』を読んでいると、高千穂の深い山々が持つ神秘性に圧倒されます。新田原(新富町周辺)から見ると、高千穂は同じ県内とはいえ「少し特別な、深い山奥の聖地」という感覚があります。
しかし、小説の中で描かれる「過去の悲劇が現代へ繋がっていく糸」を追うとき、私はどうしても、母が見た新田原の飛行機の陰、そして花札をしていた若い兵隊たちの姿を思い出してしまうのです。
宮崎には、神々が降り立ったという美しい神話の歴史(光)と、戦争という時代に若者たちが命を散らした歴史(影)の両方が、確かに存在しています。
名作ミステリーを片手に、皆さんもぜひ、宮崎の美しい景色と、そこに刻まれた歴史の物語に想いを馳せてみませんか?新田原の地名は読みにくいですが、ここにも確かに、教科書には載らない人々の生きた記憶が残っています。