少し肌寒さを感じる朝、温かい珈琲を淹れ、お気に入りの椅子に深く腰掛けます [cite: 35]。 私の読書の時間に欠かせない相棒は、Kindleです。以前の私なら本棚から文庫本を引っ張り出していましたが、今は画面をタップするだけで、一瞬にして物語の世界へと旅立つことができます。
前回の「平家伝説」では、地元の宮崎と高知を重ね合わせてしまうという少し恥ずかしい勘違いもありましたが、今回ライブラリから選んだのは、奈良県・吉野の奥深くを舞台にした名作、**『天河(てんかわ)伝説殺人事件』**です [cite: 33]。
■ 延岡のポスターと、重なる物語
この本を読み進めていると、ふと地元の光景が頭をよぎりました。 私の故郷・宮崎県の延岡市では、毎年「薪能」が開催されます。あいにく私自身はまだ参加したことはないのですが、街角で見かけるあのポスターの、凛とした厳かな雰囲気はいつも印象に残っていました。
漆黒の闇に浮かび上がる篝火(かがりび)と、静寂を切り裂く鼓の音――。 Kindleの画面に映し出される『天河伝説』の舞台、奈良の天川村に流れる空気感は、あの延岡のポスターから感じていた「神秘的な予感」と、不思議なほど重なり合います。遠く離れた奈良の物語が、地元の風景を通じて急に身近なものとして迫ってくる。これもまた、読書がもたらす面白い体験ですね。
■ 「一介のルポライター」としての、ひたむきな光彦
本作は1984年11月に刊行された、シリーズ最初期の傑作です [cite: 33]。映画化もされ、浅見光彦の名を世に知らしめた記念碑的な作品でもあります。
今の私たちは、光彦といえば「警察庁長官の弟として有名な名探偵」というイメージを持っていますが、この第3作の時点では、彼はまだ何者でもありません [cite: 31]。内田康夫が光彦をモデルに小説を書くという設定が定着する前の作品なので、本作の光彦は行く先々で「怪しいルポライター」として不審者扱いされ、時には警察に連行されてしまうような、泥臭くも瑞々しい姿を見せてくれます [cite: 31, 32]。
■ おわりに:心に響く、五十鈴の音
物語の鍵となる「五十鈴(いすず)」の清らかな響き。読み終えてKindleの画面を閉じたあとも、その音色は私の心の中にいつまでも残っていました。
歴史と伝説が現代に牙を剥くミステリー。けれどその根底には、時代が変わっても、読むデバイスが変わっても、決して変わらない「人の想い」が流れています [cite: 37]。
今度、延岡で薪能のポスターを見かけたら、きっと今までとは違う、より深い敬虔な気持ちでその絵を見つめることになりそうです。次に宮崎へ帰る楽しみが、また一つ増えました